二年ほど前、出版界の話題は電子書籍の花盛りだった。
いまでもアマゾンが参入するとか、作家たちが集まって会社を作ったとか、いかにも前途洋々の仇花が咲き誇っているが、現実はとても厳しく、ほぼ絶望的な状況になっていると聞こえてくる。
とある作家の5万部ほど売れた本を電子書籍化し、ほぼ半値で電子書籍店に出したところ、一年間の売り上げはなんと「5部」だったという。
その電子書籍会社は年間50冊ほどの作品を売り出している。最高で1000部、ほとんどが10部以下、惨憺たる結果だそうだ。
みんながiPadとやらを片手に、旅先で、新幹線で、通勤電車のなかでも、文学や紀行に慣れ親しんでくれると思ったのは、誰かが振りまいた幻想でしかなかった。
だれも購入して電子本を読もうとは思わないらしい。イマドキの若者はとくに「インターネット上の情報はすべて無料」と思っている。芸術も文学もすべてタダ。
ところがiPadは結構うれている。何を見ているのかというと芸能、スポーツ、雑報 ただひとつオカネをはらってみているのが、「マンガ」だというから悲しい。指一本でスライドすれば、つぎつぎと局面の展開するマンガは、ハードに見合ったソフトなのかもしれない。
電車のすみで、いつも文庫本に眼をおとし、静かに文脈を追っていた文学少女に憧れたものだが、あの少女たちはどこへ行ってしまったのだろう。少女たちが、いまマンガをiPadで読んでいるとしたら、もう初恋のうつろいも夢の彼方、時代は変わったと嘆いているばかりでいいのだろうか。
電子書籍はマンガのため?
コメント
1件のフィードバック
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電車のすみで、いつも文庫本に眼をおとし、静かに文脈を追っていた文学少女に憧れたものだが
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プロフィール

星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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