iPS細胞とダゲレオ・タイプ

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 山中、山中、山中と新聞の大見出しに踊った。
人工多機能幹細胞(iPS細胞)を開発した、山中伸弥京都大学教授に対するノーベル医学生理学賞を授与するという決定だ。同じ万能細胞「ES細胞」のときにあれほどかしましく論じられた人間哲理に関する議論はまったく影をひそめ、再生医療に関する期待だけが大きく報じられている。
 受精卵からつくるES細胞にしろ、皮膚細胞からつくるiPS細胞にしろ、いずれも人間の命の初期化に迫る技術にちがいないのだから、このたびは倫理問題が発生しないというのは、あまりよく解らない。
 お馬鹿な政府は、文化功労者にするか、文化勲章にするかで頭を悩ましているに違いない。勲章の年齢序列からすれば、50歳の山中教授は、まだ文化功労者だが、ノーベル賞へのコンプレックスでは文化勲章でなけばならない。前例主義の役人には頭の痛い問題だ。
 ところで山中教授はいま世界中の特許権取得で大変だと語っていた。 この技術を広く人類のシアワセのためにつかうためには、とりあえず京大がすべての特許押さえないと使えなくなると、いうのだ。
 アメリカが資本のちからで猛烈に追い上げ、商品化の過程で抑えられてしまう可能性がある。そうなるとすべの稔りはアメリカの特定企業に取られてしまう。日本人が開発したのにアメリカ企業に金を払って使わせていただくという現実が待ち構えている。
 フランスの舞台美術家ルイ・ジャック・マンデ・ダゲールによって、発明された写真の原理・ダゲレオ・タイプは、ただちにフランス政府が買い上げて、広く一般に解放した。そのおかげで今日の、一家に5台のカメラ時代が到来した。携帯スマホから、高級一眼まで自由にカメラがあるのは19世紀末のフランスのお蔭なのだ。
 著作権、特許権など知的財産を、すべて金儲けの種にするアメリカに絶対にわたしてはならない。
 尖閣を国有化するより、iPS細胞技術を国有化して、ひろくパブリック・ドメインにした方が、はるかに人類のためになる。
 


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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