女を泣かした罪

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 女に泣かされたことはない。
 女を泣かしたことはまゝある。
 色恋の果てとか、恨みつらみの果てではない。とはいっても長いこと人間をやっているので、心ならずも女性の心を踏みにじったこともある。…慙愧に堪えない。
 女性を涙の状況においこむのは、あまり好きではない。 出来ればその前の状況で、事態を収拾できなければ、一人前の男ではないと思っている。 が思うようにいかないのが、人の世の習いである。
 近頃では、やたら涙をみせるのは男のほうだという。別れ話で泣くのも男が圧倒的に多いそうだ。それだけ女性も自意識に目覚め、色恋でも男の上位にたっている。
 そのうえ、女性には「うそ涙」という武器がある。
ヴォルテールも言っているように「女の涙の一滴は、男のあらゆる理屈に勝る」のでお手上げなのだ。
 気を引くときのウソ泣き、ものをねだるときのウソ泣き、都合の悪いときのウソ泣き、困ったときのウソ泣き、怒られた時のウソ泣き、女は泣くことで「すべてが終わる」ことを本能的に知っている。
 芝居の稽古をつけているとき、出来るまで追い込むが、泣いて逃げ出す女と、歯をくいしばってもついてくる女では、天と地ほどの差がある。生まれてこの方、怒られたことがない、と昂然という女ほど始末の悪い女はいない。生まれっぱなしが当たり前のオバカなのだ。 
 その意味からは歌劇の生徒たちはひたすら努力する素晴しい女性たちだった。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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