師走の声をきくと、千枚漬が食べたくなる。
しばれる冬の京都に似合うはんなりとした絶妙な味、それが千枚漬ではないだろうか。
12月の京都では、吉兆の懐石よりも瓢亭の朝がゆより、ふっくらと炊き上がった白めしに、壬生菜の添えられた千枚漬が食べたくなる。
そこらのスーパーで売っている千枚漬ではない。
お土産用の大安のあの甘い千枚漬でもない。
都の冷たい空気に触れ、きりりと締まった聖護院かぶらの旨味に、北海の上等昆布、米酢、伏見のみりんが加わった優しい品のいい漬物が、極めつけの千枚漬である。
本来保存食の筈の漬物を、まつたく反対のコンセプトで、淡い味わいの新鮮さを漬けたアシの短い漬物が千枚漬けだ。
孝明天皇の大膳職として御所に出仕していた大藤藤三郎が、天皇の趣向に合うよう工夫して創ったのが千枚漬の始まりといわれているが、御所好みの京都の伝統を戴した食のグルメが、千枚漬なのだ。
丁寧に洗われ、やさしく皮をむかれた聖護院かぶらは、職人の腕のみせどころであるカンナ掛けで、薄いシャキッとした一枚のかぶらになる。手のひらと指さきで見事に広がるさまは、トランプの名人のようでもあり、熟成の予感にこれこそ伝統の手仕事、美味くて当り前、日本の食のしごととは、こういうことなのだと納得する。中国人にもフランス人にも絶対にできない。
明治23年の全国博覧会で、日本名物番付に入選いらい、全国的な人気に答えて味がどんどんと堕落していった。そのなかで、古来の公卿好み、御所好みを守って丁寧に千枚漬造りをしてきたのが、京都四条の村上重さんなのだ。村上重の千枚漬はまさに日本の逸品だとおもう。
冬になると千枚漬が食べたくなる
コメント
1件のフィードバック
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『京、ふたり』で、山本陽子が大きなカブラをカンナ掛けで、ガリッガリッと削っていた音が、昨日の事のように思い出されます。
あのドラマ以降、千枚付けを好きになり、何度も食べましたが、昆布のぬめぬめ感は、かなりのレベルでも、妙な甘ったるさの物には何度か出会いました。
村上重の千枚漬、壬生菜が少ないのが難点ですが、クリスマスのご馳走候補に加えました!
プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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