安倍公房さんがいつも言っていた。「もう文学の時代は終わったよ」
池田龍雄さんがいつも口にしている言葉。「現代美術は死んだんです」
時代の先頭を走ってきた先人たちから絶望にみちたそうした言葉をいくつも聴いてきた。
デジタル時代に突入して、ますますそうした思いに囚われている。これを老人のたわごと、愚痴と受け取るのは勝手だが、果たしてそうだろうか。時代に対する警告ではないか。そうした先人たちには、IT世代にはない思いの深さがある。
さて半沢直樹については、勧善懲悪に対する喝采だとか、規制の組織や体制にたいする不満が爆発したとか、多様な解釈が踊って高視聴率を説明している。それぞれに三分の理がある。
象徴的な「倍返し」の台詞は、こめられた怨念の深さやアタックの強さから、まさにセリフではなくコピーそのものなのだ。そこには理性を超えた動物的感情の高揚が込められている。倍返しは一般人の言葉ではなく、その筋のひとの言葉ではないか。テレビに支配されている普通の人々が、半沢直樹に乗じてヤクザな言葉に酔うという、悪いもの見たさの大衆心理ともいえる。
堺雅人の芝居についても、アクの強いわざとさは、劇画世代でなければ考えられない。劇画で強調されるワンカット、ワンカットの細切れ表現なのだ。見るほうも登場人物にある一貫した性格表現より、その場その場のテンションの高さに酔って喝采を送る。情報化社会の負の遺産だ。
演技術に於けるスタニスラフスキー・システムは完全に死んでしまった。新劇の世界から、優れた脚本も有望な新人も、現れなくなった現実がなによりの証拠だといえよう。
半沢直樹に見るIT世代の表現
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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