今年も先輩、後輩、仲間、友人たちから、年賀状の数々をいただいた。
心のこもった年賀状は、花束をいただいたような幸せな気分になる。
家族の近況やら、子供の元気報告にまじって、もう歳なので来年から年賀状をやめるので、という死に支度もまじっている。
が世間に背をむけて生きている芸術家からの賀状は面白い。というのは不謹慎だが、作家それぞれの人生観、世界観が一枚の賀状に籠められている。
手書きのます目のうえに、青いペン字で「ひとりで舞いつづける」とあったのは、戦没画学生慰霊美術館「無言館」のオーナー窪島誠一郎さんからのもの、ダイナミックな巳の筆文字に「うれしく たのしく 美しく」の讃が書かれていたのは、ニューヨークで活躍する沢オイさん、いま注目されている若手の富田菜摘さんは人間の棄てた廃品で「ヘビの造型」、「巳年じゃじゃばり蛇づくし 虫はまむし虹は天空の蛇 メジャーかなわぬチャレンジャー 虫虫たる游の虫委蛇委蛇」と木版の発信元は版画家福本繁樹さん、出会いこそ活気のもととつぶやく田尾兵二さんは、シャープなニューヨーク美人の腰に手を回して身体をあずけている。
直木賞作家の松井今朝子さんは端正な巳の字の左下から赤い蛇の頭がデザインチックに覗いている。病床にある団十郎さんからは、滲んだ墨で巳の字のあたまにほんのりと眼が浮かんでいた。
猫、犬、猿、豚が立ち上がって蛇文字で2013とあるのは東加奈さん、蛇態を借りて色彩を抽象化しているのは画壇の長老池田龍雄さん、諏訪湖に浮かぶオランダ船のデッキには、真澄の樽が積み込まれている。
もっともエロティシズムに充ちていたのは、イラストレーター山口はるみさんの賀状。真っ赤なボブの女が、唇に人指指をそえて眼を閉じている。色は赤の濃淡だけ。女はなにを思っているのだろう。
年賀状さまざま
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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