年の瀬の祇園町の三つの儀礼である。
「来年もおきばりやす」 家元の言葉とともに、若い芸舞妓は稽古用の白扇をいただく。名取になっているお姐さん方は新年の干支や勅題に因んだ舞扇をいただく。
稽古場の床の間には、お名取めいめいの名札のついた鏡餅の壇飾り、丸餅の重ねに昆布飾り、いちばん上には葉つき蜜柑のお供えがある。この日、門前の稽古場は取材記者とカメラマンでごった返す。
12月13日の事始めは、井上流の芸始めと正月迎えの予祝が重なって今日に伝えられてきた。
南座顔見せの総見も終わって、12月31日を迎えると「おことうさん」…今年一年の感謝をこめて、お茶屋、料理屋などを回って、お礼を申し上げる祇園ならではのあいさつ行事である。
「こんにちは、おことうさんどす」「おおきに、あんたもようおきばりやしたな」「いいえ、まだ…」「来年もきばっとくれやっしゃ」「へぇ、おおきに」
舞妓さんはお年玉の入った紅白の大きな福玉をいただいて帰る。
そして大晦日の夜は八坂神社にお参りし、おけら火をいただいてくる。火縄に移された火が消えないようにぐるぐると廻しながら、無言で帰路につく。知った人にあっても口をきいてはならない。吉兆が逃げていくと言い伝えられ、昔から無言詣りとも言われたおけら詣りだ。おけら火で焚くお雑煮は悪病を払うと信じられてきた。
やがて来る新しい歳の闇に、火縄のつくる光の輪に光の輪が重なって、幻想的な京の年の瀬を創りだす。
事始め・おことうさん・おけら詣り
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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