少年たちのラブレター

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 「僕の心臓がどきどきなっている。なにごともないように隣に座っている君のせいだ。」
 「君の存在や香りがこよなく心地いい。だから二人はもっと近ずく。」
 「明日を考えられるのは、君しかいない。」
 わずか9歳の小学3年生のラブレターというから驚く。
 パリの小学校では、低学年から詩の暗唱をさせるので、子供ながらオマセな子は充分に詩の用途を心得ている。子供なりにオケージョンを考え、恋文に託しているのだろう。恋の実相については、まだまだ理解不能のはずだが、装飾的な恋の周辺については、さっさと習熟し、実践して、大人への序章を重ねていく。
 「好き」と書いてハート・マークをつけて、送信する。日本のデジタルな子供たちでは、とても対抗できない。
 フランスの子供たちにとって、恋心は文学的でロマンティックなもの、そのあとに肉体的関心がくるのだから、それだけ心優しく大切に扱うだろう。
 記号化された恋のあとにくるものは、ゲーム感覚の交わり、DVだったり、殺人だったりと、荒涼とした愛の商品化が待っている。少年犯罪の原因を論じるとき、こうした文学教育の視点が100パーセント欠落していることに日本人はまったく気が付かない。
 少年たちの性犯罪をふせぐには、奇妙な人形をつかった具体教育より、感性を豊かに育てる文学や詩のほうが、はるかに優れているし、社会全体も豊潤な愛の社会になっていくはずだ。
 お金で買った「愛のトロフィー」を飾り、型通りのバレンタインをしてもなんの役にも立たない。パリには義理チョコやホワイト・デーはない。
 
 


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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