バケットの楽しみ

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 パリヂャンをイラストすると、ベレー帽をかぶって小脇に長いバケツト、というのがまず標準的なイメージだろう。ベレー帽の伯父さんはだいぶすくなくなったが、夕方になると太った伯母さんが小脇にバケットを抱えて、マルシェの帰りという景色はそこかしこでみられる。
 フランス人にとって、バケットというのは日本人にとっての白飯のようなもので、欠かすことはできない。そこて゜パリ市とパリ商工会議所が立ち上がって、毎年春にパリ・バケット・コンクールなるものが開かれている。美味しいバケットは優れたフランス文化であるというのだ。
 このコンテストが注目されるのは、50万円ほどの賞金よりも、グランプリをとると、大統領の住むエリゼー宮に一年間、バケットを納入するという栄誉がつくことだ。街のパンヤのパンを大統領が食べるというのだから、こんなに嬉しいことはない。パンヤの親父さんは鼻高々で、「どうだ俺のパンは、サルコジもカーラも食べてる逸品だぞ。」とばかり張り切る。
 長さ55センチから70センチ以内、重さ240グラムから310グラム以内のバケット・クラシック。パリパリの皮の香ばしさ、ふっくらした中身、美しい空気坑、繊細でリッチな味は噛みしめる程に深く、これぞパリのバケットとなる。
 その美味いパンヤのあつまっているのが、モンマルトルはサクレクールの麓、アベスあたり。アールヌーボーのデザインがそのままに今に伝わっているアベス駅のすぐ前を通っている道筋に、ここ3年ばかりのグランプリのパンヤさんが軒をつらねている。パンそのものに限らずハムをはさんだジャンボン・サンドやサラダをはさんだビオ・サンドなども店頭に並んでいるので、小腹のすいた学生や若夫婦にはとても都合がいい。毎日食べてもあきない素敵な美味いパンなのだ。昔ながらの製法で、トラディショナルな食を伝え残そうというこのコンテストは、フランス人の食文化を雄弁に語っている。
 


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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