常用漢字の不思議。

　29年ぶりに常用漢字が改定され、196文字が追加された。これを見て驚いた。なんでこんな文字がシカトされていたのか不思議不思議。なかでも一番のショックは「嵐」、気象用語としては当たり前だし、ジャニーズのタレント・グループとしてもほとんど毎日お目にかかっている文字だ。広く認知され総合的に判断して追加された、というのだが、嵐に判断の必要はないだろう。文化審議会というのはよほどにぶいのか、お役所仕事の必然なのか、かえって不思議で疑問詞が飛ぶ。
　さらに驚いたのは「淫」の文字もいままで日陰の身だったことだ。青年になった頃、この文字に直面するとなぜか赤面し、心臓の鼓動が乱れたものだが、文字としては当然市民権をえているものと思っていた。子供が口にしてはいけない大人の文字が、「淫」だったような気がする。多く性的用語にもちいられているが、辞書を引いたところとりあえす゜35の活用例がでていた。
　淫乱、淫行、淫書、淫雨、淫風、淫欲、淫蕩、淫水、淫売、淫女、淫婦　等々、性犯罪関連でしばしば登場してくる文字なのだが、学校関係者から性を連想させるから反対などというとぼけた発言があったと伝えられる。それならまず事実婚だの婚前妊娠などを追放しなければならない。「淫」の文字は人間の業を表すけなげな文字ともいえる。あいかわらず綺麗ごとで人生を語ろうとする偽善者たちは絶えない。泉鏡花も、谷崎潤一郎も、三島由紀夫も、フランソワーズ・サガンも理解できずに拒否する軽井沢町教育委員会のような生涯学習担当役人がいる間は、この国の大人達は何時までたっても世界に通用する大人にはなれない。人畜無害のうわべだけ、福祉人道を唱えていれば安全という日本だけの人生観世界観は、世界の大人から軽蔑されるだけである。