コウタケを賞味する。

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 秋になると上田別所平の松茸山へ行きたくなる。鈴子山荘、鎌倉山荘、見晴台…松茸山の山小屋はみな賑わいを見せている。不作のとしはそれなりに、心の中で韓国産?カナダ産?とつぶやいても口には出さず松茸には違いない、と得心して松茸料理を楽しんできた。それがどうしたことか今年の大豊作、地元の学校給食には二度の松茸御飯、それでもまだ松茸はつぎつぎと顔を出しているそうだ。テレビも揃って松茸山の豊作を映し出すので、遠くの観光客で山道は大渋滞、地元のわれわれは締め出されてしまう。
 軽井沢にもフレンチやイタメシならずニホンメシの名店が出来てきた。川魚に山の恵みを添えてご馳走がでてくる。「今日はコウタケが取れましたから…おまかせください。」コウタケのことはかねがね聞き及んでいるが、かまえていただくのは初めて。迫力のある香りと旨味は松茸を凌駕し、癌や痔に良く効く名茸という。まむしが好むのでコウタケを見付けたらまず蛇を警戒する。貴重なコウタケの炊き込みご飯の前に八種の茸のてんぷら、松茸、舞茸、椎茸、栗茸、香茸、衣笠など荒塩でいただく。その前には高価なクロカワ茸の浅い煮付に大根下しがそえられて、いかにも老茸の深い味を楽しんだ。こうした秋の食の楽しみは、山にすむ人間の特権かもしれない。
 千曲川では落鮎の季節を迎え、鮎好きは子持ちのふとった鮎に舌鼓を打つ。ヤナに産卵後の鮭が上がったなどというニュースもなんとなく嬉しい。松茸小屋からシミのついたセンベ座布団がなくなり、簗場から工事現場に良く使われているブルーシートがなくなったらどんなにいいだろう。外国のお客様も連れていける。信濃路の季節料理の贅沢が大イバリできるのに、と考えるのはないものねだりなのだろうか。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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