「ぜひ結婚しなさい。良い妻をもてば幸せになれる。悪い妻をもてば、僕のように哲学者になれる。」ソクラテスの言葉だが、人前で夫を罵倒し水を浴びせたのはソクラテスの妻クサンティッペ。モーツアルトの妻コンスタンツェは、8年の結婚生活の間に6回出産して家事能力はゼロだったといわれている。つまり生殖能力だけの悪妻だった。そして第三の悪妻こそ82歳のトルストイが、家出を決意せざるをえなかったほどのソフィアだった。
「戦争と平和」「アンナ・カレーニナ」などで知られるトルストイは偉大なる作家であるとともに思想家であった。帝政時代の逸楽にどつぷりつかった妻ソフィアを身近にみて彼の理想主義はゆるぎないものになったような気がする。階級制度や私有財産を否定し、非暴力と人道主義をかかげたトルストイ主義は帝政の腐敗から社会主義への架け橋になったが、そこには悪妻ソフィアの物欲と権力欲が鮮やかに投影している。著作権の継承にこだわり荒れ狂うソフィアは、トルストイの眼には限りなく愚かでもてあましたことであろう。内省的な彼にとって13人もの子供を宿したソフィアの性欲は恐怖以外のなにものでもなかった。トルストイは妻を愛していたと解説する向きもあるが、毒蛇に睨まれた子羊のようなものではなかったか。映画会社はマイケル・ホフマンの「終着駅」を人間愛と夫婦愛の相克として売っているが、原作のジェイ・バリーニはベトナム戦争反対の闘士であったし、帝国主義への憎悪が隠されたアンチ・キャピタリズムの小説であることは論じるまでもない。「贅沢はいらない。質素に静かに執筆生活を送りたい。」と願って82歳にして妻を棄てて家出した老作家の心情が重く突きささる。「お願いだから、あの女だけは連れてこないでくれ。」大地にキスをして寂しく家出した文豪の背中が悲しい。
世界三大悪妻の頂点。
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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