レ・アルの殺戮

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 牛、羊、豚がひしめきあって乗っている無蓋車が、つぎつぎと引込み線にはいってくる。牛、羊、豚それぞれのホームに追い出され、一列になってラインに吸い込まれるように進む。通路は牛のはば、羊のはばしかないから、必然的に出口探しのように数百坪はあろうかと思われる複雑な迷路をただ前へ前へとなだれを打ったように進む。見渡す限りの牛・豚・羊の迷路の行進は不気味な死のパレードであった。やがて強烈なシャワーのしたをくぐる。まもなく待っているのはコンクリートで固められた水の流れる処刑の場であり、無表情に自動的に落ちてくるギロチンの刃だ。胴体とくびは見事に切り離され、滝のごとき水のなかを無表情にそれぞれの製肉場に送られる。製肉場で処理された肉はただちに裏口からトラックに載せられてパリ市内の肉屋、レストランに送られていた。人のいとなみの残酷さに慄然とした。50年前、パリの胃袋といわれ賭殺場だったレ・アルは、今ファッションとインテリア、映画、レストラン、など芸術と文化と大衆消費のワンダーランドになっている。ガラスとスティールを主体に設計された地上一階地下四階のレ・アルは前衛の顔をもった大量消費のシンボルになっている。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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