イカナゴの春便り

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 毎年春になると、神戸の花隈からイカナゴのくぎ煮がとどく。イカナゴといっても東国の人々には馴染が薄いが、3センチ程の小魚で桜の開花に合わせて成長する。この小魚を醤油、砂糖、味醂、生姜などで煮込んだ佃煮のようなものだが、神戸大阪では年賀につぐ春のご挨拶になっている。くぎ煮にはそれぞれに微妙な味の違いがあるが、かって1000人の芸者が競ったといわれる花隈の豊福のものが大層いける。くぎ煮の甘さに坂本竜馬が英気を養い、桂小五郎が遊女お蔦に溺れた坂の町花隈の色香がただよっている。贈ってくださるのは、若いお嬢さんを集めて人形浄瑠璃の一座を主宰している野沢吉三さん。名前から男性と思われる人が多いが、実はれっきとした女性。阪神大震災のおり箪笥と壁に挟まれながら奇跡的に命をひろった浄瑠璃の名手である。イカナゴの水揚げは神戸の春の風物詩として人々を和ませ、近年では「神戸イカナゴ検定」などがマリンピアの魚の学校で開かれている。イカナゴという名前の由来は、なんの魚の子か判らなかったので「いかなる魚の子なりや」と旅人が尋ねたところからきたと言われている。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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