椿姫のお墓を見下ろすモンマルトのホテルの一室、眺望絶佳、中庭をはさんだ向かいの部屋にはカジノ・ド・パリの踊り子が住んでいた。彼女は毎朝窓を開け放ち、生まれたマンマの姿で体操をする。終わるとこちらに笑顔を投げかけながら、トイレに消える。さてこちらの方は、トイレの便座の隣にどうどうとビデが鎮座ましますのだが、一向に用はなく、ときたま汚れた靴下の漬けおき洗いする。朝、食事を運んできたマダムがビデが濡れているのを目ざとく見つけ、夕べのマドモアゼルはどうだったかとしつこい。そんな懐かしいパリのトイレだったが、帰国して何時の頃からか、ウォシュレットなるものが広まりこれは世紀の大発明だとかなりのフリークとなった。ところがこのところ洗ったつもりが体に悪く、なんとかの善玉菌が洗い流され、悪玉菌が繁殖して細菌性膣症が増えているという。これは早産の原因にもなるので、とにかく行き過ぎた清潔志向はやめろというのが学会の報告のようだ。大小はじめなんでもかんでも終わったら洗うというのが今時の日本人。パリ娘は生理のときと、勝負のとき以外は、決してビデを使わない。
プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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