女性ばかりの理容室

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 看板をみて愛情に餓えた男が散髪に出掛けた。刈り込みと顔剃りを女性がしてくれる。信じられないこの世の天国に男は優しさを期待した。ところが出てきた女性はみなお袋よりも歳をとったお婆ちゃんばかりだった、という嘘のような本当のはなし。某大学前の床屋さん。
 長屋の入り口に必ずあったといわれる浮世床以来、「男はやっぱり理容室」と頑張ってきたが、このところ理容学校の応募者は右肩下がり、このままいけば、街角の床屋さんは無くなってしまうといわれている。「アットホームな理容室」「洗練された理容室」「美容室の雰囲気がある理容室」等々、工夫は重ねているが「容姿を美しくする美容師法」に対し、「容姿を整える理容師法」では時代の流れに対抗できない。いってみれば「官僚につぶされた床屋さん」の運命をたどっている。赤・青・白の縞柄サインポールもまもなく見納めかと思うとひたすらに懐かしく、またひとつ世間話の行き先も無くなって人情紙風船のごとき殺伐とした町に近ずく。不二家のペコちゃんも元気なく、薬やのサトちゃんもくたびれて三丁目の夕陽は沈んだままなのだ。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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