縁日は涼しかった

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 夏の暑さの楽しみは、浴衣を着ての縁日だった。
 子供心に八幡様の縁日は、異界の出来事…真夏の夜の闇に現れた不思議の世界だった。
 祭りばやしを聴きながら、裸電球とカーバイトの匂いのなかに、金魚がいたり、あんず飴があったり、カルメ焼き、ラムネ、かき氷、綿アメ、お面売り、なかには月遅れの小学一年生から女学生の友がならんでいたり、綿アメの隣では「表がバナナ、裏もバナナ」のたたき売りもあって、ひとつひとつが嬉しくて立ち止まろうとすると、おせいさんは「駄目! お参りしてから……」、御本殿にお参りをすまさないと縁日をのぞくことを許してくれなかった。
 御本殿のよこの神楽殿のオカメひょっとこも楽しく、うっかりすると金魚すくいの時間を忘れてしまうほどだった。
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 ディズニーラントより、八幡様の縁日のほうがずっと楽しかったような気がする。帰り道は透明のビニール袋に泳いでいる金魚の一匹二匹をゴムで吊るして揺らしながら金魚鉢のことを考えながら幸せいっぱいに帰ってきた。
 初めてのスーパー・マーケットだったし、異界体験が縁日だった。
 縁日には扇風機もクーラーもなかったが、いつも涼しかった。
 だから夏になるといつも縁日が待ち遠しかった。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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