仁左衛門の獅子に酔う

by

in

仁左衛門連獅子.jpg
 久しぶりにシアワセな獅子をみた。
 というより立派な親獅子を見せていただき、舞台の満足を味わった。
 仁左衛門とその孫千之助による連獅子である。
 派手な毛振りから江戸方の役者がなにかと演じたがる連獅子だが、石橋物といわれるこの踊りは、いわずもがな獅子の親子の厳しい掟と愛情が交錯した人間のドラマだ。
 白と赤の手獅子による親子の連舞にしみじみとした愛情が伝わるが、映え好きの近頃の役者は説明的表現のみで奥が浅い。後半の勇壮な獅子の狂いにばかり気をとられ、スーパーの大売り出しのごとく、トモエや菖蒲叩きなどの毛振り競いばかりに力がこもり、作品の格を落としている。
 仁左衛門の親獅子は、華やかな毛振りながら、常に子獅子への愛情にみちた素晴らしい表現をみせてくれた。抑制のきいた品格と人間性にあふれた素敵な舞台だった。ひょっとすると仁左衛門さんの最後の連獅子かもしれない、という声に背中を押されての歌舞伎座だったが、うっとうしいコロナ対策の煩わしさを超えた、至福の時であった。
 次代の若手もマンガばかりにウツツを抜かさず、歌舞伎の伝統的演目の深さに目覚めてほしい。 
 


コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


カテゴリー


月別アーカイブ