リモートを弾劾する

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 なにげなく朝のテレビを見ていて驚いた。
 女子アナが、「……それではリモートで生出演していただきます。東山紀之さんでーす。」
 ベテランの羽鳥真一はなにも言わない。いつも騒々しい社員の玉川某も黙っている。番宣で出てきたことは、社内スタッフはもとより視聴者もあらかた承知していて当たり前のようにみている。
 「リモートで生出演」そんな常識がまかり通っていることにあきれた。 リモートはあくまで遠隔地との中継出演であって、すくなくともスタジオには存在しない、ということを意味している。 生出演はスタジオに同時出演して、同じ空間に存在していることを意味する。それ故「リモートで生出演」などという放映形態はありえないのだ。 にもかかわらず番宣でどこか遠く、もしくはタレントの自宅からの中継を「生出演」などという言葉におきかえているとすれば、それは「詐欺」というべきだろう。
 そもそもコロナ悪疫騒動以来、「リモート勤務」「リモート授業」「リモート会議」「リモート飲み会」「リモート・ダンス」など、リモートが氾濫している。
 さも「リモート」こそが、「新しい生活様式」にふさわしい生活スタイルと発言する知事や、オバカ・タレントがいるが、リモートで間に合うのは、金儲けだけが目的の経済人やゲーム屋ぐらいのものだろう。教育や文化の側面で、リモート賛成などというのは人間を否定する堕落した意見であるといえる。
 人と人との触れあいから人格教育がはじまる。少人数の人格教育を標榜したのは母校成蹊学園だった。芸術社会学のゼミは、いつも数人で教授と膝を交えての受講だった。教授の知識だけではなく、共に美術館にいき、劇場に足を運んで、人柄までも身体に染み付いた。いまでもあれこそが最高の教育だったと信じている。
 200人、300人の階段教室で、マスで授業に励む早稲田や慶応の規模にはついていけなかった。テレワーク専門の予備校と変わることがない。人に触れることで人間は成長すると信じてきた。
 リモートやテレワークで間に合うのは所詮それだけのこと。経営者にとってはいつでも馘首できるし、画面を通した虚像としか対面していなければ、愛情もわかないだろう。人間がデジタルの下僕になったり、5Gの奴隷になってはいけないのだ。
 人間を棄ててA1にまかせるなんてことは僕にはできない。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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