働き方改革のいま昔

by

in ,

スタディオ録音風景.jpg 
テレビの音楽番組を制作するとき、伴奏のカラオケをレコード会社からかりてきて、そのテープを流して歌手が生で歌う…それが現在の音楽番組のスタンダードだが、かっては番組の差別化を図るため、その番組ならではの伴奏を新たにつくり、スタジオに持ち込むことが多かった。
 弦楽器を大量にふやしたり、ハープをもちこんで装飾音をふやしたり、サックスでお洒落にスイングしたり、番組なりの個性をうちだす。フルバンドにクラシックの奏者を加えて贅沢な音を創ることなど、日常的な作業だった。
 そうした伴奏の録音作業で問題を起こすのは、ままクラシックの演奏者に多かった。3時間の基本契約で集められたメンバーだが、自分の演奏ミスで録音時間が10分延びてもさっさと楽器をしまって帰ろうとする。編曲をした指揮者も、ともに演奏しているポップスのメンバーも唖然とする。要するに演奏者としての責任感が欠落している。意識にあるのは3時間という契約時間だけで、完璧な演奏をするという責任感に欠けるのだ。クラシックという保守的な音楽にたずさわっている音楽家に、そうした傾向が多いというのは実に不思議な体験だった。
 最近の働き方改革から仄聞すると、かっての体験がよみがえる。
新入社員の責任感のなさは恐るべきものがあると、伝えられる。会議ではメモをとらない、メモをとれというとパワハラだと開き直る。聞き流すので、議題の目的や意図を理解できていない。当然のごとく仕事の優先順位もわからないし、作業にやたら時間がかかる。仕事には内容と同時にスピード、つまり時間という責任もあるということがわからない。まわりに迷惑をかけ、みずからの居場所を失って結局辞めていく破目になる。
 最新のデータによると、一年以内に31%、さらに3年以内に13%、5年たつと50%の社員が退職していく。その多くが非正規雇用やプータローになるという悲しい現実の働き方改革だといわれている。


コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


カテゴリー


月別アーカイブ