十連休のさなか、東へ行くと人ばかりなので、南へ行きましょうというお誘いにのって佐久へ出かけた。
佐久大橋の近く野沢の千曲川河畔にある中嶋公園、静かで広々としたたたずまいがなんとも気持ちよかった。手入れの行き届いた公園の樹木、日本中がお休みというのに、植木屋さんだけが小枝を入れた竹籠をもって働いている様が、良き時代を思わせた。
見事なのは柳の大木、二人がかりでようやくかかえられそうな柳には、新芽をはらんだ柳のたおやかな枝がそよいで素晴らしかった。
風のままに静かにそよぐ柳をみていると、風を楽しみ、風とともに生きている柳がうらやましくなった。こんなに立派な柳の木は信州ではみかけない。
ブータンの都、ティンプーの河原にそよぐ柳の訴えるような静けさに心ひかれたことを思いだした。ヒマラヤの白い山々を背景に、柳の若いみどりがきっぱりと清潔な春をみせてくれた。
九州柳川の掘割にそよぐ柳も素晴らしかった。透けた柳の向こうから嫁入り舟がきた。川面に映る花嫁さんに祝福の拍手を贈った昔を思い出す。柳の若いみどりと、真っ白な角隠しと、少し狭い掘割が一幅の絵のようだった。
明暦3年、振袖の大火に焼け残った真田中屋敷を江戸から移築したのが、中嶋公園と知った。故あっていま屋敷は鹿教湯にいってしまったが、この柳ひょっとして江戸の下町から引っ越してきたのかもしれない。
江戸干拓の風景となり、振袖の大火をくぐり、いま千曲川のほとりにそよいでいる、柳のあまりの立派さに妄想は果てしなく広ろがった。
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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