軽井沢でなんとオペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」が見られる。
大畑晃利君を中心に活動している軽井沢オペラ・プロジェクトである。もう六回を重ねているので、オペラへの愛情はかなりのものだ。が今回はメノッティの電話を一部で採りあげ、二部にカヴァレリアをやるという変則的なプログラムである。
このヴェリスモ・オペラ、つまり現実主義的オペラの第一作とされているカヴァレリアは80分という短さで、欧米では第二部にパリアッチを上演する。南イタリア・シチリア島を舞台にしたふたつのオペラで愛憎の裏表を描き出すユニークな組合せなのだ。
今回の公演ではそのパリアッチがなくて電話になっている。電話はその揺籃期を切り取って家庭生活に電話がはいってきた頃をパロディ化している。朝の爽やかな雰囲気のなかで今様な愛の当惑を語っている作品である。
始まってまずおどろいたのが、主役の衣裳だった。真っ赤な赤いドレスにアイロン掛けは似合わない。そこに登場する思い焦がれた男が黒では舞台全体がしずんでしまう。さややかな軽い衣裳であればよりお洒落にこの作品は引き立っただろう。固定電話と携帯をごちゃまぜにして狙ったおもしろさも、客席に響かず座標軸のない悪ふざけに終わった。
さてカヴァレリアだが、この作品の表現には二つある。ひとつはミラノ・スカラ座版ともいえるシチリアの風景と当時の時代考証にこだわった古典主義的表現。そしてもうひとつはパリ・オペラ座バスティーユ版ともいえる白黒の抽象表現に徹した演出である。この場合復活祭の陽気な気分の表現はそがれるので、ヴェリスモ・オペラとしての魅力は薄くなる。
今回の舞台は後者の演出をとっていたが、決定的なマイナスはブラウン調の道具だった。プレハブ風な軽いレイアウトの道具が、写実でもなく抽象でもなく、電話にもカヴァレリアにも合わなかった。いっそすべてを真っ白にしてしまったほうが遥かに作品を引き立てただろう。
それにしても久しぶりに聞いたマスカーニの音楽は、あらためて美しくロマンにみちた楽曲だった。
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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