春は花のうた

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 春になると、滝廉太郎の「花」のメロディを思い出す。
 幼い時に度々連れていかれた隅田川の情景が、しっかり脳裏に埋め込まれているせいだろうか。上り下りの蒸気船が川面をにぎわしていたし、隅田堤は桜の芽吹きで嬉しさが充ちていた。
 長じて後、この歌は滝廉太郎が源氏物語24帖胡蝶の巻に触発されてつくったと知り、隅田川の景色より源氏の色事へのこだわりを読み解かねばならないと、ますます興味ある唄になった。
 ここでの花は桜だが、春の花の唄は多い。桃はひな祭りの主役だし、すみれの花咲く頃は宝塚のテーマソングだ。
 竹下夢二は宵待草に託してみずからの失恋を唄った。シューベルトは忘れな草を唄い、シューマンはハイネの詩にはすの花を見つけた。
 中田喜直はサルビアを唄っている。
 信州の春は千曲川の菜の花畑に始まる。飯山の小高い丘から菜の花の黄色い絨毯が、一直線に千曲川に降りる。唱歌で菜の花畑に入日薄れと謳われたその場所だが、信州人は菜の花の迷路を歩き、インスタ映えとやらを撮影して終わる。野沢温泉北竜湖の辺りまで菜の花の畑はあるが、スーパーやコンビニに菜の花漬はない。
 あの春の香りとほろ苦い菜の花漬の至福に出会うには、京都錦小路の打田までいかねばならないのが残念だ。
 菜の花や 月は東に 陽は西に   与謝蕪村


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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