事務所に向かう途中、週刊誌を買おうとコンビニに立ち寄った。反対側の棚の真ん中あたりに眼が吸い寄せられた。雑然としたインスタントものの真ん中に、黒いパッケージで妙に垢ぬけたデザインの箱がある。「やきそば・夜のペヤング・ピリ辛ソース味」とある。
夜店の一平ちゃんやきそばなど、昭和のデザイン風になれた眼にははなはだしく新鮮にみえた。ひとつ買い求めて事務所に向かった。
めざとく見つけたスタッフが、「夜のペヤング」とは意味深ですね、とつぶやく。そうか単純に受験勉強徹夜の友と考えていたのは浅はかだった。パッケージをよく見れば、下のほうにマカ入りとある。マカは精力増強や、不妊対策にも効くという霊薬である。つまり初めから「夜」は学生の夜ではなく、大人の夜だったのだ。
群馬伊勢崎のまるか食品はなかなかにしぶとい会社と感心した。数年前やきそばにゴキブリが入っていた事件では、あっさり工場を閉鎖して半年ものあいだ、すべての販売を中止した。
ペヤング発売時には、ハシを二膳つけて二人仲良く食べて欲しい、と話題の戦略に訴えた。青春のペヤングは夜のペヤングに進化した。
振り返ってみれば、ペヤングは始めから少しエロかったのだ。
半世紀前、始めてやきそばが売り出されることになって、祇園のお座敷で話題にしたところ、一斉に攻撃された。「お兄さん、フライパンで焼かんと、お湯たしたら焼きそばができるなんて、冗談もいい加減におしやす。」「オヘソが茶沸かす、みたいな話や」さんざん笑われて、市井に出回ってから、「焼きそばいわれれば焼きそばやけど、焼いてないのに焼きそばいうのは詐欺やおへんか」ととことん非難された昔を思い出した。
ペヤングの製造元まるかのホームページを覗いて感心した。
レギュラー・サイズを二つつなげて超大盛のブームをつくったり、暑い夏にぴったりの四川風やきそば、マヨ付きのからしマヨネーズやきそばでは、パッケージはキューピー・マヨ風だったのに実際使ったのはケンコー・マヨだったり、湯切り不要のスープ入りやきそば、油断できない辛さの激辛やきそば、超大盛やきそばハーフ&ハーフ激辛の三回美味しいヤキソバと、工夫の歴史だった。
マカ入りの夜のペヤングには、それなりの歴史があった。
少しエロい「夜のペヤング・マカ入り」
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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