ヴァレンタイン・デーに先んじて送られてきたプレゼントにとても嬉しいものがあった。15センチ×10センチそれに高さ6センチほどのブリキの缶に入ったお菓子である。この場合中味の菓子はどうでもいい。菓子をいれた缶がとても嬉しかった。
缶の表面にはルネ・マグリットの作品がプリントされてある。お菓子の名前もメーカー名もまったくない。
お菓子を作ったメーカーの作品にたいする姿勢、敬意がみえてますます嬉しくなる。マグリットの作品はかの「人の子」(1964)に描かれた作品である。小市民の紳士の顔に青いリンゴの実がたちはだかっている。
小市民は白いワイシャツにネクタイをきちんと締め、待ち合わせ時間には絶対に遅れないルネ・マグリツト自身のような紳士だし、顔を遮った青いリンゴもまだまだ未熟な自己を表すような示唆にとんだ構図の作品である。彼の視覚と哲学の融合という考え方が見事に作品化されている。
なによりもマグリットの作品にホツとするのは、基本をなすもののカタチが、きわめて正直で明確なことだ。そこには主観をいれた難解なものはなく、平易なかたちの合成のなかで哲学を主張している、芸術家のひかえめなモラルに充ちた思想が流れている。
上半身がブルーとなり、下半身がリアルカラーの「黒魔術」と題された作品でも基本の形はまったく写実の女性だというところがまさにマグリツトであるし、「共同発明」は上半身が魚、下半身が人間そのもの、「ゴルコンダ」でも天地を浮遊する無数の人間たちはじつにリアルなのだ。マグリットが時間を超えて支持されるのは、シュールリアリストたちの我儘を超えたところにある彼の思想にあるのだろう。
ちなみに彼は死ぬまで夜10時の就寝時間を守ったと伝えられる。
嬉しかったルネ・マグリットの菓子缶
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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