今シーズン芥川賞・直木賞の受賞作家が、ともに北海道にかかわりがあったというので話題になっている。
最近の文学賞の作家たちはますます地方出身者が増えている。都会からの文学者は衰退のいっぽうだ。たまにコンビニを舞台にしたり、富裕層の音楽に素材を求めた文学もあるが、メガトレンドにはならない。 鉄筋とコンクリートで渋谷の谷間に巨大な町を創ったり、世界のハイブランドを引っ張ってきて観光客目当てのモダンな商業施設を目の当たりにしても、そこに文学の萌芽はあまり見当たらない。
そこに見えるのはウォール街の金勘定で、いくら見つめても人間の営みが見えない。
都市はマンガ、劇画、アニメなどコミックの供給源となり、田舎は文学の基地となりつつある。
かつて鎌倉には著名な作家たちが集まっていた。鎌倉の魅力は、頼朝より川端康成であり大佛次郎だった。鎌倉に住まいをもてない作家たちは、中央沿線に集まった。丹羽文雄、井伏鱒二、太宰治らが暮らしていた。
がいまでは手塚治虫、藤子不二雄、赤塚不二夫らの椎名町トキワ荘を起点に、西武池袋線にとどめをさす。練馬区はアニメの町を自ら名乗り、大泉には「ジャパン・アニメーション発祥の碑」がある。「臨死!!江古田ちゃん」も懐かしい。この国のコミック作家の80%は西武池袋沿線にいるとさえ言われている。
田舎から大都市に焦がれてきた人達によってつぎつぎとコミックが産みだされている。
今期二大文学賞のふるさとが北海道になった。平成29年上期の芥川賞「影裏」の作家沼田真佑はふるさとを小樽といっている。小樽運河には歴史の水が流れている。「月の満ち欠け」を書いた直木賞の佐藤正午は北大に5年半いたという。ポプラ並木をいただくあの楽園で助走していた。
前回の芥川賞山下澄人も富良野出身だし、直木賞の桜木紫乃も釧路出身だ。池澤直樹も藤堂志津子も札幌にいる。北海道の悠然とした自然と大気のもとで、人間の苦悩と喜びを紡いで見せた。
もはや人間を考えるのは、田舎でしかできない行為なのかもしれない。
文学賞は田舎に生まれる
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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