”名物に美味いものなし”と言われるが、昔から美味かったというものもある。
何故そこにそんな名物かあるのか、まつたく不思議だが、これは甲府の名物よ、といって出されたのが、「アワビの煮貝」だった。富士山の裏側の甲府に海はない。海なし県の真ん中、甲府の名物が「アワビの煮貝」とはシャレがきついと思ったが、のちに煮貝のルーツを読み解いて納得した。
伊豆下田の網元が特産のアワビを醤油漬に加工し樽漬にしたものを、馬で甲州まで商いにいったところ、下田の地元より数倍美味くなっていた。馬の背にゆられて数日たった煮アワビは、生アワビの5倍ものグルタミン酸がでて、風味も舌ざわりも抜群に良くなっていたのだ。
煮アワビは下田ではなく、甲府でこその名物になると、みな与6代目が気ずいて甲州名物が誕生したということだ。
最近では全国どこにいってもあるが、30年位前までは京都でしか食べられなかった名物に、「にしん蕎麦」がある。四条河原町の芝居茶屋松葉の二代目松野与三吉が明治15年に考案したものだそうだ。それまで遠くから運ばれてきていた、みがきにしんの棒煮が高級珍味として芝居帰りの座敷に人気があった。
これをつゆ蕎麦にいれてみたらどうか、と思いつき工夫の末に生まれたのが「にしん蕎麦」だと伝えられる。日高昆布の出汁つゆににしんの旨みが加わった総本家松葉のにしん蕎麦は、無敵の美味さである。冬京都に行った折には、松葉のにしん蕎麦用に作られたにしんを求め、山国でゆでたつゆ蕎麦に入れて食べても至福の味が幸せをもたらす。
信州はそばが美味いという俗説に流されて、長野にきたらとりあえず蕎麦やにはいるという観光客がいる。
長野でも蕎麦やはいろいろでピンキリ、願わくば美味い蕎麦を食べて帰ってほしいと念じるが、駅前の適当なソバや、宣伝だけが上手で、肝心な蕎麦のほうは褒めたくない味の蕎麦や等で、盆休みに軽井沢へ行ったからお蕎麦をたべてきたの、などと後の電話にせっするとガッカリする。
故郷を貶められたような気分になる。
名物に美味いものあり
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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