盆提灯は人間のために

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盆提灯は人間のために
 軽井沢に住んでいると、盆行事のこと忘れがちになる。
 観光客や避暑客の接遇に追われ、みずからの祖霊にたいする供養の心が薄れる。わずかに幼稚園の裏に櫓を組んで盆踊りをする、ぐらいのことか。
 避暑と一緒にキリスト教が入ってきたため、仏教系の行事は弾圧されたという歴史もある。近年はすべて経済至上主義で、忙しい真夏に盆行事どころではない、という情けない状態なのだ。
 信州には善光寺があるので、長野まで行けば盛大すぎる盆踊りもあるし、盆花の市もたつ。
 小諸、上田、松本それぞれの盆踊りがある。戦後は誰の入り知恵か知らないが、市民祭などという意味不明のタイトルを付けたので、ただの踊る阿呆と見る阿呆のイベントになってしまい残念なことだ。
 ペットロスのために盆提灯を、という名目でペット屋の店頭に盆提灯が並んでいる、というニュースに接し、日本人の自己喪失もここまできたか、と驚いた。ペットを人間なみに扱うという美名にかくれ、人間としての尊厳を失なっているのだ。倫理も哲学もない。所有欲のヴァリエーションでしかないペットに、盆提灯という発想は、人間喪失のなによりの証しともいえよう。ペットに盆行事を求めるあなたは病んでいる。
 お盆が来ると、奥三河の遠州大念仏を思い出す。かつて武田、徳川の三方ヶ原の合戦の死者の供養に始まったと伝えられるが、いまでもそれぞれの大念仏團を組織し、新盆の供養に駆け回る。歩いて回る念仏團、リヤカーに太鼓や双盤をのせて周る念仏團、あるいはバスを貸し切って周る念仏團、といまでも30近い遠州大念仏團がでる。
 お盆の奥三河は祖霊供養の鉦や太鼓の音に充たされる。盆提灯も日本一立派なものが飾られて、死者も迷うことなく返ってくる。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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