さようなら、A5ランクの牛達

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さようなら、A5ランクの牛達
 「肉はA5に限る」誰が言い出したのか知らないが、最近この表現に反発する勢力がでてきた。
 「A5の肉はいらない。脂過剰で決してうまい肉ではない。うちではA4等級以下で充分美味いすき焼きを提供します」宣言したのが、明治13年から雷門に店を構えるすき焼きの名店「ちんや」の社長である。
 「ちんや」は、東京風な割下でたくすき焼きで、値段ばかりが高いA5ランク信仰に我慢ならなかったのだろう。戦前は美味い肉は赤身だった。ヒレ肉の中心にあるシャトーブリアンは、ヨーロッパでも日本でも、香り、旨み、食感で最高とされてきたのだが、何時の頃からかサシばかりが過剰に入ったA5肉に人気が集まるようになった。
 食肉業者の戦略だったのだろうが、「当店の肉はA5ランクの最高級○○牛」と書きだした食堂・レストランだらけとなり、調理の腕も棚上げの宣伝合戦となった。
 「ちんや」では、霜降り肉といわず「適サシ肉」と表示するようになった。
 脂肪の量は4等級(そのほうが身体にもいい)で、なによりも脂肪の溶け方がよく、赤身の旨みと脂の甘みのバランスがとてもいい。香りも立ち、胃もたれもしない、いいとこずくめなのだ。
 サシの入り方が細い小サシと言われる状態は、加熱するとサシと赤身の境界から「和牛香」と言われる香りがでて、なんとも美味そうな食欲を促進する香りにみたされるという。時の流れとはいえ、バブリーなキャッチに踊らされ、脂身だらけの肉を食してきた我々自身の食に対する意識が問われている。
 「ちんや」では肉の適正化とともに、溶き卵の改良も発表している。
 名匠小津安二郎が好んだカレーオイル入りの卵と、酸味を加えたヨーグルト入り卵の二種である。
 溶き卵の革命と「ちんや」は云っているが、いずれの折に試食してみたい。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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