「私に売れない家はない!」駄目な部下に「GO!」と気合をいれる北川景子主演の「家売るオンナ」、
「地味にすごい・校閲ガール河野悦子」職域というルールが全く判っていないハデハデ娘・石原さとみ、
そこにいままでの演劇的リアリティはまったくない。見て面白いバラェティ的要素を盛り込んだニューウエーブである。
水曜夜10時からの一時間ドラマ枠に、日本テレビはバラエティ・ドラマというキャッチを与えた。この二本のドラマは、従来存在した伝統的な演出法に対するアンチテーゼであり、新しいテレビドラマの水平線を暗示している。テレビドラマに寄生している演劇的手法を無視し、現場から、映画を追い出し、演劇を追放している。
顔にクイック・ズームするや、突風が髪を巻き上げたり、相手をにらみつけると眼のビックアップにきらりと閃光が走る。会社のビルにはやたらに大きな社名がスーパーされたり、キャッチがつぎつぎと走る。重要な会話には巨大テロップが挿入される。場面転換ではアイドルのグラフィックのようなパターンを使う。
マンガの影響も考えられるが、それよりも演出のイメージのなかで、自由に楽しく作り上げている。役者の演技に頼らず、ポスト・プロダクション時にどんどんモンタージュしてドラマを膨らませている。スタジオの勝負ではなく、ポスプロの勝負で作っている。テンポ感もリズムもスタッフが後から作り出している。
もしテレビドラマが生き残るとしたら、水曜10時には無限の可能性が秘められている。
日本テレビ開局のころ、「せんぼん・よしこ」という女性演出家がいた。彼女の仕事はテレビの創世期に於いて、実に前衛的であり、映画のドラマづくりを追いかけたテレビ演出への警告になっていた。
いま水曜10時の日テレのドラマをみると、半世紀まえのせんぼん・よしこの心意気を思い出す。長い間、情報番組やバラエティの現場にいた 小田玲奈 という女性プロデューサーがいまこの水曜10時枠の中心にいると聞いた。
プロデューサーと演出のあいだのせめぎ合いは判らないが、日テレには伝統的に、女性スタッフを育てる素地があるような気がする。
明日のテレビドラマへ GO!
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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