私の好きなふたつ…人間とコンビニ を読む

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私の好きなふたつ…人間とコンビニ を読む
 第55回芥川賞受賞作/コンビニ人間/村田紗耶香著  早く読みたいと思いながら、雑事に追われやっと読むことが出来た。
 書き出しの音にみちたコンビニの店内で、久しぶりにラジオ・ドラマを思い出した。
 そこにえがかれている音の世界は、戦後テレビが始まるまでのある期間、メディアの先端に君臨したラジオ・ドラマそのものだった。君の名は、鐘の鳴る丘、など昭和20年代から30年代にかけて、梅田晴夫、阿木翁助、内村直也などそうそうたる作家たちが、ラジオ・ドラマに才能を傾けていた。
 いま名作オペラの古典になつている「夕鶴」なども、はじめはラジオ・ドラマとして世にでた作品だった。
 あの頃のスタツフは、実に音について繊細な神経をもつていた。実在するリアルな音にたいして、その音のもつ背景や暗示する未来について必死に考え、再現のみならず創造する作業にくらいつき、音響効果を芸術の高みにまでおしあげていた。コトバの文学性にたいし、音響の芸術性を正面からぶつけていた。
 それが無くなってしまったのは、デンスケを担いで走り、デジタル録音が当たり前になった頃からだ。実際の音だけに価値をみつけ、創作する音にだれも興味を持たなくなってしまったのだ。
 さてコンビニでしか働けない36歳の独身女性古倉さんは、マニュアルを覚え、大きな声をだすことによって
人間を獲得していく。そこに登場するのは、ひたすら世間を呪詛するダメ男白羽さん、二人ともかなり可笑しい。 がマニュアルの集積場であるコンビニという舞台を、なんの批判もなく受け入れていく古倉さんと、まつたく拒否する白羽さんの同居から不思議な、恐ろしい、可笑しい、ものがたりに発展する。
 それは文化社会学の説く、システムと人間の関係を、見事に解き明かした喜劇とでもいえよう。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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