この場合の16区は居住区をさす場合もあるが、異なるニュアンスも多々ある。
「美しい素敵な」あるいは「蠱惑的な」「情熱的な」もっと言えば「時間をもてあました浮気なマダム」という場合もあれば、「お洒落で若さを失わないマダム」の例もある。この場合は「グルメでお金持ちの」といった意味である。
ここでマダムに愛されたのは、「CARETTE カレット」というサロン・ド・テだ。紅茶党としては、カフェのつるし首の紅茶よりも、ポット・サービスのサロン・ド・テの真心こもった紅茶に当然のごとく票をいれる。
場所はエッフェル塔の対岸トロカデロ広場に面したサロン・ド・テ、何軒かのカフェにはさまれた老舗である。そんなに大きくない。大きくないがどことなくシックな雰囲気が漂っている。
細番手の黒いセーター、深い黒のミニスカート、黒いタイツ、そして艶のある黒のエナメル・シューズ、ラウンドネックのセーターから粋にとびだした白い襟、仕上げはやはり黒のちいさなエプロン、サービスの女の子たちはみんなスリムでキュートな魅力にあふれている。半世紀まえのドアノウの写真にでてくるパリジェンヌのような。隣近所のカフェがみな男性スタッフなのに、ここカレットだけが女性スタッフのサービスなのだ。
16区のマダムのお薦めで訪れたが、テラスから中に入って驚いた。店の左側壁一面に大きくディスプレイされているのが、パティスリーのコーナーだった。店の半分近くをパティスリーが占めている。エクレア、ミルフィーユ、サントノレ、オペラといったクラシックなお菓子から、今様な飾り菓子まで華やかにならんでいる。カナッペと言われるフィンガー・サンドから自慢のクロアッサンとかなりのレパートリーだ。
フイガロ誌からパリ・ベストの賞を受けたエクレア、かつて一日の終わりをコーヒーと美味いエクレアで締めくくりたいといっていた室戸の徳増君の顔を思い出す。マカロン大賞で驚くべき部門グランプリを得たというマカロンも名物になっている。
紅茶はもちろんのこと、ケーキも美味しく、そのうえ女の子たちのキュートな魅力、妖しい魅力の16区のマダムがいなくとも、十二分に満足できるトロカデロの「カレットCARETTE」だつた。
16区のマダムに愛されて。
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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