菊五郎劇団の八犬伝を楽しむ

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 初春には芸妓でなくとも櫓をくぐりたくなる。
 今年も国立劇場に於ける恒例菊五郎劇団の「南総里見八犬伝」に行ってきた。というのは、ここ数年国立に於ける菊五郎劇団をみるのが、なによりの芝居見物になっている。古い狂言を復活して、すこし現代のサビをきかせた歌舞伎が実に楽しい。芝居の楽しさがあふれているのが、菊五郎さんの正月芝居なのだ。決して無理をせず歌舞伎の見せ場を堪能させてくれるのがいい。江戸っ子の愛した芝居とはこういうものだつたろうと、江戸に愛された歌舞伎をしっかりと見せてくれる。
 まず曲亭馬琴=作というのが嬉しい。きっちりと読んだこともないが、曲亭馬琴が江戸最大の作家であること位の知識はある。「東海道中膝栗毛」の作者十返舎一九とともに版元からの執筆料で生計をたてた初めの人だったと伝えられる。つまり江戸期に於ける本屋大賞第一号だったのが、曲亭馬琴その人だった。
 全98巻106冊に及ぶ長編伝奇小説の八犬伝は、格調高い和漢混淆文であったのだから、この読本を買い求めて読んだ町衆のレベルは相当に高かった。今時の漫画100巻の読書家など足元にも及ばない。
 犬山道節の登場、円塚山のだんまり、芳流閣大屋根の立ち回り、火遁の術と見せ場につぐ見せ場は、初春狂言に相応しい。ただ圧倒的な劇的情緒の演出に難があるため、いまひとつドラマとしての充実感に欠ける初春歌舞伎狂言であった。
 八剣士という群れに影響されたか。今年の初春興行は見せ場を見せきるカロリーが少し不足していた。
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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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