ルネ・マグリットに惹かれる

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 いま見たい美術にマグリットがある。
 20世紀いろいろな現代美術が登場したが、徹底的にに写実にこだわり、哲学にこだわった絵描きを他に知らない。
 マグリットは幼馴染の少女と結婚し、普通のアパートに住み、台所のすみにイーゼルを立てて絵を描き、ポメラニアンを飼い、夜の10時には就寝し、生涯妻を愛した、芸術家としてははなはだつまらない作家だった。
 が彼の作品は21世紀になっても鮮やかに存在を主張している。彼の作品に描かれている自然も人物もリアリズム以外のなにものでない。そうしたところから批評家たちからは幼いと評されたが、その先にある彼のイメージの凄さ、感性の鋭さまで批評家たちには読み取れなかったのだろう。
 そこには絵筆によってデフォルメされていさえすれば良しとする現代美術の落とし穴があった。
 シュールリアリズム作家とひとことでいわれるが、白いスカーフで覆われた男女の首絵などぞっとする恋の深層にせまっているし、目玉のなかの空にしても偽りの鏡が実に皮相的だ。凌辱と題された二つの乳房とデルタのある顔も、人間への確信的な摂理が描き出されている。
 絵描きでありながら、思想家として哲学者として優れていたのが、ルネ・フランソワ・ギスラン・マグリットだったともいえるだろう。
 マグリット展は三月に新国立美術館で開かれる。
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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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