祇園町四条通りの北側、切通しに進々堂という小さな喫茶店がある。喫茶店といってもドアを押してなかに入るとレトロな雰囲気で…というような喫茶店ではない。いつも開けっ放しの二間すこしの店のまえには、パンやケーキのガラス・ケースが置かれ、その奥に6席ほどの昭和の香りの椅子がある。
鴨居には色褪せた芸妓さんの引札から舞妓さんのお披露目の名札がぎっしりと張られ、いかにもこの町で永くお商売をしてきた風情がある。
師走の声をきくと、この小さなお店にひっきりなしにテレビ・カメラがやってくる。
お店の二階で福玉づくりが始まる。大晦日の芸舞妓さんの挨拶まわり「おことうさん」の時に、舞妓さんにくばる毬、つまり福玉をつくるのは、この店のご主人藤谷攻さんしかいないのだ。攻さんは、お店の仕事をしながら、福玉をこつこつと造っている。
今年さいごの挨拶事「おことうさん」にとって福玉はかかせない。舞妓さんの返礼にお茶屋さんは沢山の福玉を用意する。いくつもの福玉をさげて花見小路を急ぐ舞妓さんの風情は可愛いくもあり、祇園の習俗としても欠かせない。
餅菓子の皮で作られた直径25センチほどの毬は紅白に分かれ、中に心尽しのものが入っている。新しい歳の縁起物をはじめ、化粧品、貯金箱、花名刺入れ、ときに棗など、福玉は新年の二日に割るのだが、ささやかなお年玉に舞妓さんは声を上げて喜ぶ。
進々堂の攻さんは、祇園町にとってなくてはならない人なのだ。
福玉を手にした 舞妓 孝蝶…いまは新橋の名妓 くに龍
福玉を作る進々堂の攻さん
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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