新幹線に乗ると先ず席の傾斜やら足元を調整する。昔は靴置きがあって、必ず畳まれた靴置きを自分の足の置きやすいように開いた。最近の新幹線に足置きが無く、膝下がそのままホールドされる。マッサージチェアにあるシステムがそのまま新幹線に採用された。
そこで提供される時間は、しばしの旅ではなく安息のエステ・サロンになっている。良いか悪いかは乗客の考え方しだいだが、我々世代の人間にとっては、少々の不都合は旅のうち のようにも思え、あまりに完璧な座席は逆におちつかない。きっとどこかに善からぬタクラミが隠されているのではないか。すべてにほどほどのもてなしがあるのではないか。豪華な座席に身をゆだね、さてと寛ぐと、近く聞こえるだみた声の株の売買指示の気配に思わず身を固くする。さてその筋の人たちが乗っているのかと四方に神経を使うが、最新の車両は全くまわりの気配に影響されないよう孤独の設計になっている。がどこからかマスホの声は聞こえてくる。
用意されている雑誌に手を伸ばす。どうぞお持ち帰りください、と書かれているピーアール誌なのだが、ざぁーと開いて表3のページで眼が凍り付いた。
「御用邸チーズケーキ」それもなにごとか連想させるように墨痕鮮やかに書かれている。ムラのない美しい焼き色が自慢、那須高原チーズガーデンとある。天皇皇后の滞在される那須御用邸の近くであろうことが想像される。御用邸という言葉に専用権はないのだから、御用邸チーズケーキがあろうが、御用邸チーズクツキーがあろうが、かまわないのだが、なんとなく胡散臭い。皇室御用を連想させるように仕掛けられた商法であることが、あまりに露骨なのだ。かっての日本人なら決してやらなかつた商法が、モラルを超えて通用している。どうやら御用邸カステラもあるようだし、オリジナル紅茶「御用邸」と是非ご一緒にどうぞとあった。
御用邸チーズケーキの不道徳
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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