夏が来ればソーメンが食べたくなる。こんなにも季節感のある食べ物を他に知らない。
一年中同じ直径のスパゲッテイを食しているイタリア人、麺の本場の中国人にも判らない食の繊細さがソーメンにはある。
ソーメンの薬味ベストナインなる番組があつた。茗荷に始まり、生姜、ねぎ、ごま、山葵、のり、大根おろし、大葉、七味と続いた。いずれもサラリとした醤油味の出汁に仕える、貞節な薬味の範囲を心得たにほんの夏のたたずまいだ。
ガラスの器でいただく。あるいは黒のため漆に綺麗な水、そこに控えめにうかぶ白いソーメン、器の季節感にソーメンのたたずまいが映って、夏の自然がテーブルに演出される。そこに生まれる空気感は、藍の浴衣に似たさっぱりとして清潔な処女の雰囲気でもある。
こんなことを書くとセクハラといわれそうだが、冷やし中華のゴテ感に満足している近頃の日本人には通じない。
この夏突然、ソーメン汁の革命と称しへんなものが登場した。「担々麺味のつゆ」「カレー味のつゆ」「ラーメン鶏塩味のつゆ」なんだこれは、ニホンのソーメンの出汁つゆではない。国籍不明のプータローのための出汁としか思えない。
突如清純なソーメンが淫乱になつてしまつた。まさに団地妻午後2時から5時までの昼顔なのだ。
食文化にもモラルはある。
にほんの夏・そーめんの夏
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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