夏には夏のお菓子を

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 八朔を過ぎて、夏菓子の季節がきた。
 猛暑、酷暑、と最近ではだいぶ壊れた季節であるが、和菓子にはきちんとした季節がある。
 暑暑のご挨拶に祇園町のおかあさんが持参するのは、亀屋則克さんの「浜土産(はまずと)」である。ハマグリの殻に琥珀羹をつめ、なかに少し色の滲んだ大徳寺納豆がひとつぶ、宝石のような美しい夏菓子だ。添えられたヒバの葉のかおりも優しい夏をつたえる。
 葛きりで有名な鍵善さんの「甘露竹」もある。新鮮な青竹にサラリとした漉し餡羊羹をつめ、笹の葉でぐるりと蓋をしてある。底に小さな穴を開け上から吸うと、夏の甘味が口中に広がる。竹籠にどっさり竹の筒が入り、涼やかな竹林の風を想い出す。
 老松の「夏柑糖」、平安殿の「相傳薄焼あゆ」、鶴屋八幡の「丹波黒豆寒天寄せ」などもなかなかにいい。
 ほんのりと甘い冷たいお茶に、菓子職人たちの思い入れに支えられた夏菓子をいただくと、菓子のシアワセが迫ってくる。
 パティシエとか、ショコラティエとか、近頃若者たちが世界にでていくのは結構だが、こうした四季に支えられた日本の和菓子職人の繊細な心を忘れないで欲しい。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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