遅　　刻

　「さあ、遅刻するわよ。起きなさい」窓を開けて深呼吸するのと、遅刻という脅迫は、いつもワンセットで少年時代の朝を彩どってきた。お蔭で小学校では遅刻を経験したことがなかった。再三再四遅刻を重ねる友達が不思議だった。
　長じてデートの時、早く行くか遅れていくか、が話題になった。時間通りに行くというのが多かったが、なかには10分前に行くというエチケット派やら、30分前に行ってドキドキして待っているという小心者がいた。
　遅刻については、総じて女子のほうが戦略的だつた。必ず10分は遅れていくというのから、30分は遅れていくわ、という故なき自信派まで、時間厳守はひかえめな地味な娘に多かった。
　遅刻の理由についても、多くは「道が混んでて」「迷った」等だが、なかには「二日酔いで…」とか「寝過ごした」という猛者もいた。美しい女子の中には「あら、そんな約束したかしら。」と手の付けようがない。
　国会に遅刻したというので今話題の人は、石原伸晃環境大臣、言い訳は事故渋滞だったが、よく調べてみると事故はなかったというお粗末。次の大臣はないかもしれない。
　ロケに遅れてくる某女優はさっさと降ろしたし、リハーサルにガムを噛みながら遅れてくる外人モデルにもお引取りいただいた。　　忙しい人ほど　遅刻を　せぬ不思議　(祐三)