バスティーユの新しいオペラ座で20世紀オペラの最高傑作といわれている LULU をみた。日本でも新国立劇場や琵琶湖ホールで佐藤しのぶや飯田みち代がルルを演じているというのだが、本当にここにあるエロティシズムを演じたのだろうか。
ヴェデキントの地霊とパンドラの箱から構成されたこの作品は、現代文学が向き合わねばならないエロティシズムが赤裸々に取り上げられ、従来のオペラの枠をとっぱらった大胆な表現が要求されている。
ベルグの音楽も甘美で叙情的ながら12音音列によるモチーフや多様な形式が組み込まれた複雑で精緻な謎の深いドラマを紡いでいる。
開演前から真紅の構成舞台の中央に脚立がおかれ、スリップのしどけない女が板付きになっている。やがて序奏からドラマが始まると、彼女こそ蛇の生まれ変わり、魔性の女ルルであることがあかされる。
うしろの階段舞台には男たちがコロスとなり、展開される壮絶なエロティシズムへの男たちのリアクションを演じる。
官能の化身として本能のままに生きるルルはたえず肉体を媒体に男を支配する。下半身を露わにして男にのしかかり、性の歓喜を武器に男を滅亡させる。
ここでルルに要求されるものは充分な歌唱力+ヌードをいとわない肉体の美しさ+演劇映画を超えた演技力…それもセックスへの率直さがなければ絶対に演じることのできない難役なのだ。
この日バスティーユでみたラウラ・アイキンというソプラノは素晴らしかった。少しも臆せず大胆に積極的に、ラスト切り裂きジャックの手にかかり、死をむかえるまで十二分に魔性を演じ切っていた。
日本では絶対にお目にかかることのできないプリマがそこにいた。
20世紀オペラ最高のエロティシズム
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プロフィール

星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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