頬接吻の礼法

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 クリムトの油彩に「接吻」と題する名画がある。
 恋人エミーリエ・フレーゲとクリムト自身がモデルと言われている。よく見ると「接吻」はクチビルとクチビルではなく、クチビルと頬である。彼のクチビルは彼女の頬にしつかりと口ずけしている。
 クチビル同士なら何も考えずに情熱の赴くままキスは出来るが、頬とのキスにはいささかの礼法を必要とする。我々日本人の日常にないのだ。ハグよりも重く、キスよりも軽い、この頬と頬とのキスは相手によって変化する。
 久しぶりの外人との再会、懐かしい旧友が外国から帰ってきたとき、迎えた空港で交わす頬と頬とのキッスが難しい。右・左と頬を合わせてもういいだろうと顔を引くと、ダメもう一回と無言の眼差しで右を追加する。だからといって四回重ねて背徳の香りを発散させてはいけない。あくまでも親愛の情の挨拶なのだから。
 フランスでも最近田舎では3回ないし4回が増えている。パリの中心部では2回というのが平均といわれるが、地方によっては1回というところもあるらしい。ブルターニュ地方では、昔からベーゼは一回という戒律があつたが、最近の若者は3回4回と本当に下品になったと、老人が嘆いている。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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