ひと頃、尺貫法やくじら尺の問題がやたら騒がれたことがあった。
数える単位は何でもかんでもアメリカ風にすればいいということではない。どの民族にも、民族独特の長さや量を測る単位をもっている。
長さについて、地球の何分の一などという途方もない考え方は、学者しか喜ばない。庶民にとっては自分の身体や、足の長さ、歩幅から割り出された単位のほうがはるかにリアリティがある。そうした考え方から生まれたのが、東洋の尺貫法だつた。
日本人の暮らしの周りもおおむね尺貫法で充たされてきた。
畳一枚は半坪で一間の長さと決まっている。一間は六尺だ。六尺ふんどしなどは、実に明快でいい。
能舞台はむかしから三間四方と決まっていた。登退場する橋がかりは六間または七間。これを5.4mの舞台に11mのランウェイでといったら、味も素っ気もない。民族の文化とはそうしたものだ。
最近呆れた話を聞いた。のれんが使えない、寸法が合わなくて、みんな作り直しに大変なのよ、という噂。新しく出来た歌舞伎座の楽屋がどうしたことか、みなメートル法で作られていて、役者衆の楽屋のれんが寸足らずになって使用不能だとか。
たかが暖簾と言うなかれ、楽屋のれんというのは、人間国宝の画家からのものやら、世界的なアーティストからおくられてきたものなど、様々ののれんがあり、役者の印や歴史がつまっているものなのだ。舞台や映画テレビの道具も、みな尺間法で作られている。サブロクの平台やヨンパチのコンパネをベースに、家も庭も世界総てがつくられているのだ。
その財産をあっさり放り出したのが、隈研吾という高名な東大出の建築屋さん、こうしたところにテーマとしての日本文化を持ち合わせていない底の浅いアーキテクトの正体が見えてくる。
間尺に合わない
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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