もはや鍋の季節の足音がきこえてきた。
上田別所平の山のうえでは、まだ「松茸鍋」が奮闘している。よしず作りの簡素な山小屋で松茸のいろいろをふるまってくれる。人間とは強欲なもので、松茸の香りを味わいながら、思いははやくもフグすなわち「フグ鍋」に思いはとんでいる。
ふぐちりにしようか、やはり大皿いっぱいに広がったふぐ刺しからいこうかと、食欲が独り歩きする。
ふぐについては食欲というより、通過儀礼に近い。だから本場では「福」と敬称されている。大分臼杵産の天然とらふぐを腹いっぱい食して福を頂きたい。
本場からきた丸の内の山田屋も、銀座の福和も、ともに臼杵のふぐを売りものにしている。
魚の鍋に君臨するのが「ふぐ」とすれば、鳥の鍋ではやはり琵琶湖の「かも鍋」にとどめを刺す。
鴨だけではだめどす、水菜の旬がきたらご案内します、という祇園の冨美代さんが、忘れられない。 ゆったりとした座敷で鴨と水菜だけのシンプルな鍋が嬉しい。
極端だが、江戸っ子としては冬の「どぜう鍋」もはずせない。せっかちな江戸っ子のために火の通りの早い浅い鉄鍋に、ネギの刻みをいっぱいのせて食すどぜうの丸が、寒さを吹っ飛ばしてくれる。
江戸風情の大座敷の活気にあふれた浅草・駒形どぜうがぜひもの。
冬の鍋の国民食はやはり「すき焼」にとどめを刺す。家でやってもよし、外食でもよし、すき焼きは幅が広い。アメリカン・ビーフから米沢牛・松阪牛まで、懐ぐあいでどうにでもなる。
出汁で炊いてしまう関東風よりも、肉の一枚、一枚を丁寧に焼き上げる関西風のほうが好みだ。
鍋類も概して関東のものより関西のほうが美味いのは何故だろう。
鍋の季節がきた
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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