昔といっても何十年か前、九州指宿にロケにいったことがあった。
六本木はまだ冬、寒さのなかにあったが、指宿にはもう春がきていた。黄色い絨毯、開聞岳のふもとに見事に広がっていたのは、菜の花畑だった。出逢いの始まりの舞台としてこんな素晴らしい映像はなかった。
以来、春を告げるのは黄色だと信じるようになった。指宿の菜の花は日本でいちばん早く咲くと告げられ、90万本あると教えられた。
軽井沢に住むようになり、飯山の菜の花畑を知った。千曲川の東岸にひろがっている。
小学唱歌おぼろ月夜の舞台だった。菜の花畑に入日薄れ 見渡す山の端霞深し……夕月かかりて匂い淡し
子供心に景色に匂いがあるということを教えられた。
窓のそとに黄色い花がみえるようになると、京都が気になってくる。
錦市場の漬物やさん、打田の菜の花漬が食べたくなる。 ほろ苦さとほのかな香り、打田の菜の花漬は春の来訪神だ。
山形のつや姫を炊いて、開花直前の菜の花漬に醤油を少しつけて、くちに運ぶと幸福がひろがる。
菜の花漬は春の匂いをはこんでくる。
コメント
プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
コメントを残す