辛夷の花がつげる春

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 志賀村の福寿草、飯山千曲川沿いの菜の花畑、信濃の春は野山を染める黄色とともにやってくる。
 草花のなかでも黄色い花は圧倒的に多い。たんぽぽ、のげし、まんさく、かたばみ、すいせん、やまぶき、みな黄色とともに春をつげる。
 軽井沢では、白い花をつける辛夷の花が、春の使者となる。辛夷は杏などと同じ肉厚な白で、染井吉野の幸せ薄い白などより、はるかに見応えのある白である。軽井沢の町花も辛夷なのだが、不思議なことに辛夷に彩られた道は一本もない。新しい公園ができると、風土にあわない桜をうえたがるのは何故だろう。
 パリの街並はいまごろは白いマロニエの花に染まっている。ロンポアンからコンコルドの広場にかけて、マロニエの街路樹がつづく。マロニエは日本ではトチの木と呼ばれ、皮膚病や歯のくすりとされてきたが、あちらでは花粉症の元祖とされてきた。時を忘れて公園のベンチに過ごす恋人たちにマロニエの花粉が降り注ぐ。
 パリには5218の通りがあるが、そのうち1400の路に街路樹が植えられている。約10万本の街路樹はプラタナスが40%、マロニエが15%、菩提樹10%、そのほか楓、エンジュ、ニセアカシア、ポプラ、楡、桐など。
 これらの街路樹は詩や文学にもまま登場する。ジャック・プレヴェールの枯葉はシャンソンで有名になったが、もとは詩でマロニエの落葉をモチーフにしたものだ。ミモザの花に彩られたミモザ館という小説もある。藤の花はお邸の塀などによりそい,物哀しく紫の花が頭をたれる。春の終わりには、プラタナスの綿毛が石畳を舞う。


コメント

1件のフィードバック

  1. 放映中のマスターズゴルフトーナメントのテーマソング!「Augusta」も、
    ♪Well it’s springtime in the valley on magnolia(辛夷) lane って歌ってます!
     ゴルフ繋がり、辛夷繋がり、便乗しないセンスの無さは、2年毎に部署が変わる役場のシステムせいですね!
    聞き入れてもらえるまで、毎年ぼやき続けます。

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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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