鮨屋の旦那、自分の寝酒の肴に、ひそかにサンマの押しずしを作っていた。
客に見つかり、「おっさんずるいぜ。こんな美味いもん一人でコッソリ食うなんて」「どうして店に出さないんだ」
「冗談言っちゃいけない。これを出した日にゃ、ほかの鮨が売れなくなっちまう。第一サンマじゃ、値段が取れないからね。」
岡本かの子の短編「鮨」に出てくる話である。
最近ようやく落ち着いたが、釧路の初競りではキロ6万7千円、店頭では一匹一万円の値段がついたそうだ。
いまどきの鮨屋の旬ならマグロの10倍は取れたろう。かの子が生きていたら、さぞや恥ずかしがったことだろう。
軽井沢に転居した当座は、秋になると庭のバーベキュウ窯に炭を興しての秋刀魚が楽しかった。祇園うちわを煽りながら、秋刀魚の炭に焼け落ちる油と煙が幸せだった。
それが近頃では、猿が来たり、熊の夜歩きで庭の秋刀魚など、夢のまた夢である。
町長はG7の外務大臣会合が来ると浮かれているが、吾々にとっては「秋刀魚の秋」を楽しめる方が余程嬉しいのだ。
知らない外国の大臣より、秋刀魚のけむりの方が、よほどバエルとおもわないのだろうか。
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プロフィール
星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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