経験したことのない

by

in

 「経験」という歌があった。
 安井かずみの詞で辺見マリが歌っていた。
 ある日突然、 ワタナベ・プロから電話がきて「経験」を主題にしたシヨウをやりたいので、演出してほしい、とのことだった。あらためて歌を聴いた。
 やめて愛してないなら / やめてくちづけするのは / やめてこのまま帰して /
 あなたは悪い人ね / わかってても あなたに逢うと / いやといえない ダメなあたしね /
 だから今日まで / だから今日こそ / きらいにさせて 離れさせて
 これまでになかった大人のシャンソン風な歌詞が、いかにも安井かずみ風で、モデルをつかつて舞台づくりをした。
 あの頃の若者にとって、経験という言葉の響きはどこか隠微なものがあって、「経験した?」などという質問には当惑したものだ。「経験ずみだろ」というセリフも口にしてはいけない言葉だったような気がする。
 それがいつのころからか、経験値とか、経験則とかあじけない響きに変わった。
 最近では、「経験したことのない原発事故」、そのうえ「経験したことのない汚染水」などと、人類の破滅に直面する恐ろしい言葉になってしまった。
  ふとテレビをみると、「かって経験したことのない大雨に注意してください」
 経験したことのない大雨に、どうやって注意したらいいのだろう。
 「やめてくちずけするのは…」あの頃の経験がなつかしい。


コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


カテゴリー


月別アーカイブ