祇園のさまざま桜

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 桜風一過、春の桜の到来がようやく収まった。
祇園町にいると、桜は見に行くものではなく、桜はやってくる。花見の適所はそこらじゅうにあって、選択に迷う。
 鴨川べりには、枝垂れも八重も染井吉野も一通り揃って、春が来たぞうと先達を務める。鴨川だけでは不安なのか、平行する高瀬川にも桜のトンネルが出現する。丸山公園も東山の上まで桜の衣装をまとう。
 街中の寺社仏閣には桜の古木があり、ご神木のごとくに立派な枝垂れ桜がある。あの世の神や仏がこの世の残り香を春とともに発散しているかのようでもある。
 甲部では歌舞練場の中庭が素晴らしい。花街の歌舞に添えられた贈り花のごとく、これから都をどりの客席に入るその前に桜の饗宴をみせてくれる。
 芸妓舞妓がお師匠さんの家に通う途中の巽橋辺りもはんなりとした桜に会える。お座敷の終わった後の芸妓さんが、好いた旦那さんと夜桜のしたのそぞろ歩きなど、遠い明治に出会う。
 名残の桜に未練のある人は、御室の仁和寺に行けばいい。四月の終わり背比べにまけた低い桜が、迎えてくれる。見上げる桜だけではなく、見下ろす桜もあると教えてくれる。


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プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


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