祇園お化けと神戸長田のはだか鬼

by

in

 欲の鬼・怒りの鬼・愚痴の鬼、この三つの邪鬼を追い出すために、今年も祇園甲部には「お化け」が出た。昔は町衆が節分行事としてしていたのが廃れ、いまでは芸妓さんが思い思いのお化けに扮してお座敷を周る。「阿国と山三」「五右衛門と久吉」「大黒様と白兎」「三番叟」「喜撰法師」なかにはベテランの芸妓さんが昔を偲んで「舞妓さん」のお化けに扮し「でもやっぱりパツパツ感が違うのよ」と過ぎし日を偲んでいたり、当然出ると思った「バニーガール」が出なかったのが残念だつた。ラジカセ持参でお茶屋、お座敷を巡り、井上流にとらわれない自由自己流でひとさし舞う。楽しみながら鬼を追う中国渡来の行事が日本化したといわれている。
 京都には色々な鬼がでる。吉田神社には四ツ目の鬼がでる。上七軒の千本釈迦堂では古式鬼追いの儀とばかり「おかめの鬼」が練り歩く。軽井沢にもあちこちにおかめの鬼は潜伏している。我が家でもとんでもない季節はずれに鬼がでることがある。
 「福は内、鬼も内、」と豆をまくのは吉野の蔵王堂、鬼も福も一ヵ所に集めて法力で改心させようという千年の知恵、壬生寺の狂言なども演劇に託した呪術への信仰が見える。
 ゼヒ物とお薦めするのは、神戸「長田神社の古式追儺式」、ご本殿をぐるりと取り巻く回廊が舞台だが、ここに登場する七つの鬼が見事だ。一番から「太郎鬼」「赤鬼」「姥鬼」「呆助鬼」「青鬼」そして「餅割鬼」「尻くじり鬼」、神戸41戸の始まりの社とされるこの神社にはかって小さな漁村だった神戸のむかしを偲ぶ数々が残っているのだが、この鬼たちは荒々しい海の男の昔が読み取れて面白い。鬼たちはみな布ぐるみの古式な装束に、誇張された立派な性器をつけ松明をかざして、のつしのっしと歩き回り、鬼踊りを鼓舞し、さらには大きな太刀をかざして泰平の餅、やまと64州の餅、影の餅に挑みかかる。闇が辺りを包むまで、法螺貝と太鼓の音が長田の森に響き渡る。平安の昔は神戸の港を正面にした追儺の春迎えだったそうだ。


コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


プロフィール

星野 和彦

Kazuhiko Hoshino

1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表

作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞


カテゴリー


月別アーカイブ