飲料、食品、デジタル機器など新商品の発売延期や中止が相次いでいる。サントリーの「絹の贅沢」日清の「カップヌードルしお」富士フィルムの「ファインピックスT300」等々、3月下旬発売予定がいずれも延期または中止になっている。つねに新商品を出すことで、購買動機を高め市場を刺激するのが目的というが、考えてみればこんなに無駄な経済活動はない。
ファッション・ショーの演出にかかわり始めた60年代末から、春夏、秋冬のサイクルで次々と作品を発表することに戸惑ったことを思い出した。フランスが国策産業として打ち出したビジネス・モデルだが、新作を発表することによって、ついこの間市場にだした製品を腐らしていく。想像力の開発ということもあるが、実に巧く考えられた経済システムだと感心した。
あの頃はまだビール、カップメンのモデル・チェンジはなかった。バブル経済とともにあらゆるものがファッション化し、モデル・チェンジが当たり前になった。この大震災を機会にすこし考えなおした方がいいのではとも思う。シェクスピアやモリエールは腐らないので市場経済とは関係なく生き続けられる。商品は町を作らないが、芸術は町をつくる。
デジモノステーションというカタログだけの雑誌をまま読むことがあるが、最近の電話、テレビ、パソコンなど、次々と新しいものが発表されて選択に迷う。迷っているうちに次のモデルが攻めてくる。キャッチに「新時代のトビラを開く」とあれば、つい手がでる。脳ミソの代わりをするパソコンが常にモデルチェンジしていては、脳の中身も安定しない。大切に何年も使っている機械では今の情報は読めないし、保存されていた情報も消滅してしまう。女子の色恋は上書き保存で、履歴は消滅するといわれるが、暮らしはそうはいかない。
発売延期または中止に想う。
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プロフィール

星野 和彦
Kazuhiko Hoshino
1931年 9月17日 東京に生れる。
1954年 成蹊大学政治経済学部・芸術社会学コース 卒業。
1955年 旧帝国劇場文芸部 所属。
1958年 テレビ朝日(旧NETテレビ)制作局演出部 入社。
1960年 フランス・パリ・ムーランルージュより演出として招聘される。1年間滞仏。
1961年 テレビ朝日復職。
1968年 テレビ朝日制作局チーフ・ディレクター、企画室ブロデューサー を最後に退社。
星野演出事務所 設立。代表取締役 就任。
1973年 クリスチャン・ディオール取締役 就任。
1975年 SKD松竹歌劇団 演出就任。
1977年 東京フィルム・コーポレーション 取締役。
1980年 リード・ファッション・ハウス 代表取締役 就任。
1990年 軽井沢に居を移し現在までフリーの 演出家、プロデューサーとして、また執筆活動に従事する。
現在
日本映像学会 民族芸術学会 所属
テレビ朝日 社友
星野演出事務所代表
作品受賞歴
1953年 芥川竜之介作「仙人」第二回世界国際演劇月 文部大臣賞
1967年 連作みちのくがたり「津軽山唄やまがなし」芸術祭奨励賞
1970年 連作みちのくがたり「鹿吠えは谷にこだまする」芸術祭優秀賞
1971年 ミュージカル「白い川」芸術祭文部大臣賞
1992年 NDK日本ファッション文化賞
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